2026.08.04素材のこと

漆喰は、割れます。

漆喰は、割れます。

家の見学に来られた方から、ときどきこう聞かれます。

「漆喰の壁って、ひび割れませんか」

正直にお答えします。割れます。

なぜ割れるのか

漆喰は、石灰を主成分とした自然の材料です。塗ったあと、空気中の二酸化炭素をゆっくり吸いながら、何年もかけて硬くなっていきます。

一方で、家そのものも動きます。木は湿度で伸び縮みし、地震でも揺れます。土地もわずかに沈みます。

動く家に、動かない壁を塗っている。だから、細い線が入ります。

梁と壁の取り合いに入った、細いひび。角の丸みは職人が鏝でつけたもの。
梁と壁の取り合いに入った、細いひび。角の丸みは職人が鏝でつけたもの。

これは施工の失敗ではありません。材料の性質です。

割れない壁もあります

もちろん、選択肢はあります。

ビニールクロスは割れません。伸びる素材なので、下地が多少動いても追随します。工期も短く、費用も抑えられます。合理的な選択です。

では、なぜ私たちは割れるほうを選ぶのか。

十年後に、どちらが良く見えるか

クロスの壁がいちばんきれいなのは、貼った日です。そこから少しずつ、日焼けし、継ぎ目が浮き、角がめくれてきます。

漆喰は逆の動き方をします。

表面が硬く締まっていき、光の返し方が変わります。角の丸みに手の跡が馴染んで、塗ったばかりの均一さが、少しずつその家の表情になっていきます。

窓からの光が斜めに当たると、鏝の跡が浮かび上がる。均一でないことが、この素材の面白さです。
窓からの光が斜めに当たると、鏝の跡が浮かび上がる。均一でないことが、この素材の面白さです。
職人が鏝を動かした手つきが、そのまま面に残っています。
職人が鏝を動かした手つきが、そのまま面に残っています。

十年経った家を見たとき、「十年ぶん古びた」と感じるか、「十年ぶん深くなった」と感じるか。

——この違いは、住み始める前の材料の選び方で、ほとんど決まってしまいます。

私たちが漆喰を選ぶ理由は、性能表に載る数字よりも、この一点にあります。

——ちなみに、この記事に載せた写真は、すべて築9年の家で撮ったものです。

新築の、まだ何も起きていない壁ではありません。9年ぶん使われた壁が、いまこう見えています。

割れたら、どうするか

ここがいちばん大事なところです。

漆喰の細いひびは、ご自身の手でも直せます。

補修用の漆喰は、ホームセンターで手に入ります。ひびに沿って少量を詰め、ヘラでならす。乾けば、周囲と馴染んでいきます。

壁紙のように「張り替え」は要りません。傷んだ場所だけを、その都度なおしていける。直しながら使っていける素材だということです。

器を金継ぎして使い続けるのと、少し似ています。

割れた事実を消すのではなく、直した跡ごと引き受けて使っていく。そのほうが、時間が経つほど愛着が湧くものです。

もちろん、大きなひびや、同じ場所が何度も割れる場合は建物側の原因を疑うべきです。そういうときは遠慮なくご相談ください。

割れることを、先にお伝えしています

ANTiQでは、ご契約の前にこの話を必ずします。

引き渡しの半年後に細い線を見つけて「不良品だ」と感じてしまうのは、私たちにとってもお客様にとっても不幸なことだからです。

知って選んだひびと、知らずに出会ったひびは、同じものでもまったく違って見えます。

家は、買った瞬間が完成ではありません。三十年、四十年と付き合っていくものです。だからこそ、良いところだけを並べるより、こういう話を先にしておきたいと考えています。

ご相談は、まだ何も決まっていない段階で結構です。
しつこい営業はいたしません。

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