漆喰は、割れます。

家の見学に来られた方から、ときどきこう聞かれます。
「漆喰の壁って、ひび割れませんか」
正直にお答えします。割れます。
なぜ割れるのか
漆喰は、石灰を主成分とした自然の材料です。塗ったあと、空気中の二酸化炭素をゆっくり吸いながら、何年もかけて硬くなっていきます。
一方で、家そのものも動きます。木は湿度で伸び縮みし、地震でも揺れます。土地もわずかに沈みます。
動く家に、動かない壁を塗っている。だから、細い線が入ります。

これは施工の失敗ではありません。材料の性質です。
割れない壁もあります
もちろん、選択肢はあります。
ビニールクロスは割れません。伸びる素材なので、下地が多少動いても追随します。工期も短く、費用も抑えられます。合理的な選択です。
では、なぜ私たちは割れるほうを選ぶのか。
十年後に、どちらが良く見えるか
クロスの壁がいちばんきれいなのは、貼った日です。そこから少しずつ、日焼けし、継ぎ目が浮き、角がめくれてきます。
漆喰は逆の動き方をします。
表面が硬く締まっていき、光の返し方が変わります。角の丸みに手の跡が馴染んで、塗ったばかりの均一さが、少しずつその家の表情になっていきます。


十年経った家を見たとき、「十年ぶん古びた」と感じるか、「十年ぶん深くなった」と感じるか。
——この違いは、住み始める前の材料の選び方で、ほとんど決まってしまいます。
私たちが漆喰を選ぶ理由は、性能表に載る数字よりも、この一点にあります。
——ちなみに、この記事に載せた写真は、すべて築9年の家で撮ったものです。
新築の、まだ何も起きていない壁ではありません。9年ぶん使われた壁が、いまこう見えています。
割れたら、どうするか
ここがいちばん大事なところです。
漆喰の細いひびは、ご自身の手でも直せます。
補修用の漆喰は、ホームセンターで手に入ります。ひびに沿って少量を詰め、ヘラでならす。乾けば、周囲と馴染んでいきます。
壁紙のように「張り替え」は要りません。傷んだ場所だけを、その都度なおしていける。直しながら使っていける素材だということです。
器を金継ぎして使い続けるのと、少し似ています。
割れた事実を消すのではなく、直した跡ごと引き受けて使っていく。そのほうが、時間が経つほど愛着が湧くものです。
もちろん、大きなひびや、同じ場所が何度も割れる場合は建物側の原因を疑うべきです。そういうときは遠慮なくご相談ください。
割れることを、先にお伝えしています
ANTiQでは、ご契約の前にこの話を必ずします。
引き渡しの半年後に細い線を見つけて「不良品だ」と感じてしまうのは、私たちにとってもお客様にとっても不幸なことだからです。
知って選んだひびと、知らずに出会ったひびは、同じものでもまったく違って見えます。
家は、買った瞬間が完成ではありません。三十年、四十年と付き合っていくものです。だからこそ、良いところだけを並べるより、こういう話を先にしておきたいと考えています。